株式会社Lumiqは2026年3月31日、登録支援機関・監理団体・受入企業を対象としたAIエージェント「TOMO(トモ)」の提供を開始しました。TOMOは外国人材への相談対応・声かけ・支援記録の生成を自律的に行うサービスで、12言語に対応します。全国11,208の登録支援機関への展開を目指しています。
特定技能外国人の在留者数は2025年6月末時点で33万6千人に達し、前年同期比33%増という急拡大が続いています。一方、多くの登録支援機関は少人数体制での運営を余儀なくされており、日常的な相談対応や定期面談の記録作業に多くのリソースが割かれているのが実態です。声をかけたくても手が回らない、記録を残したくても時間がない——そうした現場の苦しさが支援の質を左右しているとも言えます。
TOMOはそうした課題に対し、「指示を待つツール」ではなく「自律的に動くもう一人のスタッフ」として設計されています。相談を受けて回答し、ワーカーに自ら声をかけ、記録を自動生成する——この一連の流れを人の介在を最小化しながら実現しようとしている点が、従来の多言語対応ツールとは一線を画すところです。
2027年4月に施行予定の育成就労制度では受入枠のさらなる拡大が見込まれており、支援機関に求められる役割の質・量ともに高まっていくと考えられます。このタイミングでのTOMO提供開始は、業界の変化を先取りした動きとして注目されます。
急増する特定技能外国人と、支援現場が抱える構造的な矛盾
特定技能制度が2019年4月に施行されてから7年が経過しました。当初は「人手不足分野への即戦力確保」という目的で設計されたこの制度ですが、受入実績は想定を大幅に超えるペースで拡大しています。2025年6月末時点の在留者数33万6千人という数字は、制度が実態として定着しつつあることを示しています。
ただし、制度の量的拡大が必ずしも支援の質的向上と連動しているわけではありません。登録支援機関の業務には、四半期ごとの定期面談の実施、相談対応の記録作成、入管への報告書提出など、多岐にわたる義務が課されています。しかし全国11,208の登録支援機関の多くは数名規模の体制であり、増え続けるワーカーを少ないスタッフで支援しているのが現状です。
こうした背景には、支援機関のビジネスモデル上の制約もあります。支援委託費はワーカー1人あたり月数万円程度が相場とされており、受入企業側の費用感との兼ね合いで価格競争が起きやすい構造になっています。そのため、スタッフを増員して支援の質を上げようとしても、コストが先行してしまうというジレンマが生じます。
2027年4月に施行予定の育成就労制度では、転籍の自由化など、外国人材の働く選択肢が大きく広がります。ワーカーが「より良い環境」を選べるようになることで、支援機関や受入企業にとっては「いかに定着させるか」が問われる時代へと移行しつつあります。Lumiqが「何人受け入れているか」ではなく「何人定着させているか」という問いを提示している背景には、こうした制度変化への強い問題意識が見て取れます。
TOMOの登場は、こうした構造的な課題を「人を増やさずにAIで補う」という発想で突破しようとする試みとして位置付けられます。支援業務のデジタル化・自動化というトレンドは他分野でも進んでいますが、言語の壁を伴う外国人支援の文脈においては、特有の難しさがあります。その難しさに対して、マルチリンガル対応のAIエージェントというアプローチで向き合おうとしている点は、業界観点からも着目に値します。
TOMOの機能と、既存ツール・競合との比較軸
TOMOが提供する機能は大きく4つに整理されます。それぞれを既存のアプローチや類似ツールと比較しながら、何が新しいのかを確認してみます。
① 相談対応の自律化(12言語対応)
従来の外国人支援における多言語対応は、翻訳アプリや通訳サービスを組み合わせてスタッフが手動で対応するケースが主流でした。Google翻訳やDeepLを活用している現場も多いですが、それはあくまで「翻訳ツール」であり、相談の受付から回答・フォローアップまでを一貫して処理する機能は持っていません。
TOMOは過去の相談履歴や所属企業の情報を踏まえた文脈付き回答を生成し、人の判断が必要な場面では下書きをスタッフに提示するという設計になっています。最終判断をスタッフが行う「ヒューマン・イン・ザ・ループ」型の運用は、全自動化に対する現場の不安を和らげる効果も期待されます。
② プッシュ型の声かけ機能
外国人材の離職や失踪の多くは、「困っていたが誰にも言えなかった」という状況から発生するとされています。相談窓口を設けても、ワーカー側から能動的に連絡を取る文化的・心理的ハードルは低くありません。
TOMOが提供する「声かけ機能」は、支援機関側からワーカーに対して母国語で定期的にコンタクトを取るプッシュ型のアプローチです。チャットボット系のHRツールでもウェルネスチェック機能を持つものはありますが、それらの多くは日本語・英語対応が中心であり、特定技能ワーカーの主要な出身国(ベトナム、インドネシア、フィリピンなど)の言語に12言語対応している点はTOMOの差別化要素として機能しそうです。
③ 支援記録の自動生成
登録支援機関には入管当局への定期報告義務があり、面談記録や支援実績のサマリーを整備しておく必要があります。現状は多くの機関でスタッフが手入力しており、記録の粒度や網羅性にばらつきが生じやすい状況です。
TOMOは声かけ・相談対応の流れを通じて、面談報告書・実績サマリー・面談準備シートなどを自動で生成する仕組みを持っています。労務管理や人事SaaSの文脈では記録自動化は珍しくありませんが、支援機関向けの帳票フォーマットに特化している点は、汎用HRツールとの大きな差異です。
④ ダッシュボードによるコンディション可視化
ワーカーの「要注意シグナル」を可視化し、優先順位付きでタスクを提示するダッシュボード機能は、支援の属人化を防ぐ効果が期待されます。スタッフが交代しても対応状況が引き継げる設計は、小規模組織にとって特に価値があります。
競合として考えられるのは、外国人材管理に特化したHRシステム(例:HRBrainの外国人対応機能や、外国人雇用管理ツール各種)ですが、これらは主に雇用主・人事部門向けの設計が中心です。TOMOは「登録支援機関」というニッチな対象に的を絞っており、業務フローに即した機能設計になっている点が、汎用HRツールとの違いとして浮かび上がります。
導入・検討時に見ておきたいポイント
TOMOの導入を検討する登録支援機関や監理団体の担当者が確認しておくべき実務的な観点を整理します。
コストと費用対効果の試算
サービスの料金体系は公開情報の範囲では詳細が確認できませんが、「ワーカー数に応じた月額課金」型が一般的なSaaS設計です。1人あたりの支援委託費収入と、TOMOの月額コストのバランスが採算の分岐点になります。特に少人数のワーカーを受け入れている小規模機関では、費用対効果の試算が導入判断の鍵になるでしょう。
12言語対応の実際の精度
対応言語数は訴求ポイントですが、翻訳・回答の精度はワーカーの出身地域や方言によって差が生じる場合があります。導入前に、自社が多く担当する国籍のワーカーに対する応答品質を実際に確認できるトライアル期間があるかどうかは確認しておく価値があります。
既存業務フローとの統合
支援機関によっては、すでに独自のExcel管理や別の支援管理ツールを使用しているケースもあります。TOMOで生成された記録を既存のフォーマットにエクスポートできるか、または入管報告に必要な帳票との整合性が取れているかは、運用開始前に確認が必要です。
ワーカー側のデバイス・リテラシー環境
TOMOの声かけ・相談機能はワーカー側からのアクセスを前提とした設計のようです。ワーカーがスマートフォンを持っているか、アプリやウェブフォームへのアクセスに慣れているかどうかは、機能の活用度を大きく左右します。受入企業側の協力が必要になる場面もあると考えられます。
データの取り扱いとプライバシー
ワーカーの相談内容・コンディションスコア・履歴情報はセンシティブな個人情報に該当します。データの保管場所・第三者提供の有無・プライバシーポリシーの内容については、導入前に確認しておくことが求められます。個人情報保護法の観点から、ワーカーへの適切な説明と同意取得のフローも整備する必要があるでしょう。
サポート体制と障害時の対応
AIが相談対応を自律的に行う仕組みの性質上、システム障害や誤回答が発生した場合の影響は通常のSaaSより大きくなりえます。緊急時の人的バックアップフローや、Lumiqのサポート対応時間・チャネルについても事前に把握しておくことが望ましいです。
支援の「量」から「質」へ、制度変化に向けた布石として
TOMOの提供開始は、外国人支援という領域にAIエージェントが本格的に入り込む端緒として記憶されるかもしれません。ChatGPTや各種LLMの多言語能力が実用レベルに達したことで、こうしたサービスの成立条件が初めて整ったとも言えます。
2027年の育成就労制度施行まで残り1年余りとなった今、支援機関・監理団体にとっては体制強化の方針を決める時期に差し掛かっています。人を採用するか、ツールで補うか、あるいはその組み合わせか——TOMOはその選択肢のひとつとして提示されています。
今後Lumiqは、支援機関が蓄積したデータをもとにした業界レポートの公開や、来日前段階での送り出し機関との連携も視野に入れているとしています。単なる業務効率化ツールにとどまらず、外国人材の来日前から定着後まで一気通貫で支援する「インフラ」を目指す方向性が見えます。
AIが支援業務の下支えをすることで、スタッフが本当に人にしかできない関係性構築に時間を使えるようになるか——その答えは、現場での実装と運用の積み重ねの中から見えてくるものになりそうです。TOMOが全国の支援機関に広がった先で、どのような支援の変化が生まれるのか、引き続き注目していきたいと思います。

