EAPサービスとは
EAPとは、従業員の心身の健康や職場環境をサポートするための支援サービスのことです。EAPは、Employee Assistance Program の略称で、従業員支援プログラムとも呼ばれています。カウンセリングや健康相談、ハラスメント対応、職場改善のための研修など、幅広い支援を提供します。
企業がEAPを導入する目的は、従業員のメンタル不調や労務リスクを未然に防ぎ、生産性や定着率を高めることです。社内のリソースだけでは対応が難しい部分を専門家に委託することで、安心して働ける職場環境を整備できます。
EAPサービスを導入する背景
企業がEAPを導入する背景には、従業員のメンタルヘルス不調やハラスメント問題の増加、ストレスチェック制度の義務化や働き方改革などの影響があります。厚生労働省の「令和6年労働安全衛生調査」によると、63.2%の事業所がすでにメンタルヘルス対策を実施しており、特に従業員規模の大きな企業ほど取り組みが進んでいます。一方で同じ調査では、仕事や職業生活に関連してストレスを抱えている人の割合は68.3%と過半数を超えており、従業員の健康管理は依然として経営課題の一つです。
特に大規模な組織では従業員の悩みが多様化し、社内の人事部や産業医だけでは十分に対応できません。私生活の問題や家庭環境、介護や法務といった相談は社内の窓口では限界があるため、外部専門家の活用も不可欠です。
参考:令和6年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況|厚生労働省
内部EAPと外部EAPの違い
EAPには、社内に窓口を設ける「内部EAP」と、外部機関に委託する「外部EAP」があります。内部EAPは、自社の文化や職場環境を踏まえた支援が可能で、人事部門や産業医と連携しやすい点が強みです。一方で外部EAPは、外部の専門家に相談できるため匿名性やプライバシーが守られ、従業員が利用しやすいのが特徴です。また、心理相談に加えて、法律・介護・健康など幅広い分野の相談に対応できます。
両者の特性を踏まえ、自社の予算や利用規模に適したタイプを検討しましょう。この記事では外部EAPを中心に解説していきます。
EAPサービスの内容
EAPサービスは、単なる相談窓口にとどまらず、従業員の心身の健康や働きやすい職場づくりを総合的に支援する仕組みです。心理相談や健康相談に加えて、研修やハラスメント対策、組織改善まで幅広いプログラムを含みます。以下に代表的な内容を整理しました。
- ■カウンセリング支援
- 専門カウンセラーによる電話・対面・オンライン相談。ストレスや家庭問題、職場の人間関係など幅広い悩みに対応。
- ■メンタルヘルス研修・セミナー
- 管理職向けラインケア研修や、従業員向けセルフケア研修を実施。予防と早期発見に役立つ。
- ■ストレスチェックとフォローアップ
- 法令に基づくストレスチェックの実施、結果分析、必要に応じた専門家面談を提供。
- ■ハラスメント・コンプライアンス相談窓口
- パワハラ・セクハラなどの匿名相談に対応。リスク管理や企業の信頼性向上につながる。
- ■組織診断・人事コンサルティング
- 従業員のEAP利用状況や課題を分析し、職場環境改善や制度見直しを支援。組織改革に役立つ。
EAPサービス導入のメリット
EAPは従業員と企業の双方にさまざまな効果をもたらします。単なるメンタルヘルス支援にとどまらず、離職防止や企業リスク軽減、生産性向上といった経営課題の解決にもつながります。ここでは導入によって期待できる代表的なメリットを紹介します。
メンタルヘルス改善が生産性向上につながる
専門家による相談窓口を設けることで、従業員は不安やストレスを抱え込まずに早期の対応ができるようになります。従業員が安心して働ける環境が整うことで、心身の健康維持が可能になり、チーム全体のパフォーマンスも向上します。健全な職場環境は長期的な人材定着と企業成長に欠かせない要素です。
離職防止やエンゲージメント向上効果がある
EAPを通じて従業員が相談できる体制を整えることで、悩みを理由に休職や退職するケースを減らせます。心理的安全性が高まれば、従業員は安心して働き続けられ、結果として組織への信頼感や貢献意欲が向上します。従業員満足度が高まると職場の雰囲気も良くなり、優秀な人材の定着・安定につながるため、人事部や経営層も注目すべき利点です。
企業リスクを軽減できる
ハラスメントや労務トラブルが深刻化する前に外部窓口で相談・解決できることは、企業にとって大きなメリットです。社内では言い出しにくい問題も匿名で相談でき、事案の早期発見につながります。結果として訴訟や風評被害のリスクを未然に防ぎ、企業の信頼性向上にも直結します。特に上場企業や大規模組織にとっては、社会的信用を守る施策として大きな価値があります。
外部EAPサービスで従業員が安心して相談できる
外部EAPは外部機関に委託するため、従業員が「会社に知られたくない悩み」も安心して相談できるのが最大のメリットです。匿名性と専門性が担保されていることで利用ハードルが下がり、結果として多くの従業員に活用されやすい仕組みになります。利用率の高さは効果の大きさに直結するため、外部EAPは多くの企業で選ばれています。加えて、社内に常駐スタッフを置く必要がないため、コストを抑えながら運用できる点も魅力です。
EAPサービス導入のデメリット
EAPサービスは従業員支援に有効ですが、導入すれば必ず成果が出るわけではありません。運用や浸透方法によっては十分に機能しない可能性があり、事前にデメリットを理解しておくことが大切です。ここでは企業が注意すべき主な課題を紹介します。
従業員に利用されない可能性がある
EAPを導入しても、従業員が制度の存在を知らなかったり、社内に相談しづらい雰囲気が残っていたりすると、利用率が上がらない恐れがあります。特に相談窓口は「利用しても仕事上で不利な影響を受けない」と信頼されてはじめて機能します。安心して利用できる環境整備と周知活動が必須です。
具体的には、定期的な社内広報や研修での周知、経営層からの利用推奨のメッセージなどが効果的です。導入効果を出すためには、制度設計と同時に利用促進の仕組みを組み込む必要があります。
導入や運用にコストがかかる
EAPサービスは従業員数に応じた料金体系が多く、規模が大きい企業ほど導入費用やランニングコストが高額になりがちです。さらに、相談窓口だけでなく、研修や復職支援、ストレスチェックなどを組み合わせると費用は増加します。利用率が低ければ投資対効果が見えにくく、経営層からの理解を得にくい場合もあります。まずは、必要に応じて段階的にサービスを拡大する方法も有効です。
効果測定が難しい
EAPは従業員のメンタルヘルス改善や離職防止といった長期的効果を期待するサービスであるため、短期間で成果を数値化するのは難しいという課題があります。定期的に利用状況や相談件数を把握するため、健康管理システムと連携するなどして、ストレスチェックや健康診断結果と組み合わせて評価すると効果的です。以下の記事では、従業員の健康管理を一元管理できるおすすめのシステムについて詳しく解説しています。ITトレンド独自の調査で見えてきた健康管理システムの傾向と特徴、選び方も紹介しているので参考にしてください。
また、厚生労働省のメンタルヘルス・ポータルサイトには、「守秘義務により利用者の詳細情報が把握できず、費用対効果がわからない」という声も寄せられています。その際は数値を指標にするのではなく、EAP導入前に決めた目的やKPIをもとに、企業や従業員の役に立っているかを確認しましょう。詳しくは、以下のリンクをご確認ください。
参考:専門家が事例と共に回答~職場のメンタルヘルス対策Q&A~ Q6:EAPプログラムの費用対効果について|厚生労働省
EAPサービスの選び方・比較ポイント
EAPは多くの企業が提供しているため、導入にあたっては自社の課題や規模にあうサービスを見極めることが大切です。比較の際には、相談方法やセキュリティ、費用感、導入実績などを総合的に確認すると効果的です。以下で代表的な比較ポイントを解説します。
相談方法の多様性
EAPサービスによって相談の受付方法は異なり、電話やメール、オンライン、対面などさまざまな形態があります。従業員の年代や働き方に応じて使いやすい手段が整っているかを確認することが重要です。例えばリモートワーク中心の企業ではオンライン相談の利便性が重視され、製造業や現場職の多い企業では電話相談の需要が高まります。複数の方法を選べるサービスを導入することで、従業員が利用しやすくなり、結果的に利用率の向上につながります。
匿名性・セキュリティ体制
従業員が安心して利用できるかどうかは、匿名性や情報管理の仕組みに大きく左右されます。匿名で相談できる窓口があるか、相談内容が会社に個人特定されずに報告される仕組みかを必ず確認しましょう。さらに、個人情報の取り扱いやデータ管理のセキュリティ水準も重要です。セキュリティ認証の取得や運用ポリシーが明示されている企業は信頼性が高く、従業員が安心して活用できる環境を整備できます。
導入費用と運用コスト
EAPサービスの料金体系は従業員数や利用範囲によって大きく変わります。一般的には従業員1人あたり月額数百円から千円程度が相場ですが、研修や復職支援などを追加するとコストが上がります。利用率が低いと投資効果が見えづらいため、導入前に「どの範囲まで利用するか」「予算はどこまで許容できるか」を明確にすることが大切です。複数社の見積もりを比較し、コストだけでなくサービス内容とのバランスを重視する視点が求められます。
導入実績やサポート体制
EAPサービスの質を見極めるには、導入実績やサポート体制の確認が欠かせません。業種や従業員規模が自社と近い企業での利用実績があるかどうかは、サービスの適合性を判断する指標となります。また、導入後のサポートが十分にあるか、定期的な報告や改善提案を受けられるかも確認しましょう。特に利用率が低い場合に改善策を提示してくれるベンダーは信頼できます。単なる導入で終わらず、継続的な運用を支えてくれるパートナーかどうかを重視することが重要です。
【医療・健康特化型】EAPサービス比較
医療や健康管理を重視する企業には、医師や産業医ネットワークと連携したEAPサービスが適しています。日常の健康相談から長時間労働者への面談、メンタルケアやストレスチェックまで幅広く対応できるのが特徴です。ここでは医療・健康面を中心に強みを持つサービスを紹介します。
リモート産業保健
- 業界最安値水準月額3万円から
- WEB版ストレスチェック無料
- 産業看護師付き充実のメンタルケアサポート
株式会社エス・エム・エスは、産業医と産業看護職の共同体制で月額3万円からはじめられる産業保健支援サービスの「リモート産業保健」を提供しています。ストレスチェックや衛生委員会関連業務の代行、面談調整などの対応により、人事労務担当者の負荷を大幅に軽減します。さらに、健康経営優良法人認定の取得支援も行っており、中小規模事業所にも対応可能で、導入しやすい点が強みです。
ティーペック株式会社
ティーペック株式会社は、健康相談やメンタルヘルスサポートをはじめ、ストレスチェックやハラスメント対策・研修などにも対応したEAPを提供しています。健康経営のトータルソリューションとして、24時間対応の相談窓口や法律相談、復職支援まで、多岐にわたるメニューを用意。連携の取れた体制で企業のメンタルヘルス対策を支援し、従業員の心身と組織の健康を包括的にサポートします。
エムスリーヘルスデザイン株式会社
エムスリーヘルスデザイン株式会社は、相談回数無制限で公認心理師や臨床心理士、産業カウンセラーなどからの支援を受けられる「従業員支援プログラム(EAP)」を提供しています。カウンセリング・研修・ストレスチェック管理などの専門的支援を一体的にサポート。クライアント企業のストレス対策や健康経営促進に向けて、組織と従業員それぞれに寄り添った包括的支援を実践します。
【大手・包括型】EAPサービス比較
大規模な従業員規模を持つ企業や、メンタルケアから研修・復職支援まで幅広く対応したい場合には、包括的なEAPサービスが有効です。導入実績が豊富で、データ分析や改善提案まで一貫して提供できる点が強みです。ここでは国内で高いシェアを誇る大手企業のサービスを紹介します。
株式会社アドバンテッジリスクマネジメント
株式会社アドバンテッジリスクマネジメントは、東京海上日動メディカルサービス株式会社と共同運営で、日本初の統合型EAPを自負する「アドバンテッジEAP」を提供しています。医師を中心としたプロフェッショナル体制が、ココロの健康診断から予防支援、休職・復職支援までをワンストップで担います。心理的な相談から職場への復帰まで、従業員の状態を包括的にケアする安心の体制です。
ピースマインド株式会社
ピースマインド株式会社は、日本でEAPサービスを専門に提供している大手企業です。約1,400社の幅広い業界の相談対応実績を背景に、ストレス診断・カウンセリング・研修・コンサルティングなどを包括的に提供。多言語対応や海外赴任者・現地社員対応なども完備した、グローバルサポートも特徴です。
【相談窓口重視型】EAPサービス比較
従業員が気軽に相談できる体制を整えたい場合には、カウンセリングや外部窓口の質を重視したEAPサービスが効果的です。心理職スタッフの専門性や、安心して利用できるサポート体制が導入の決め手になります。ここでは「相談のしやすさ」に強みを持つサービスを取り上げます。
MBK Wellness 株式会社
MBK Wellness 株式会社は、面談でのカウンセリングを強みとする、面談でのカウンセリングを強みとする、保健同人フロンティア事業の「EAPカウンセリングサービス」を提供しています。メンタルヘルスだけでなくハラスメントや介護など多様な相談テーマに対応し、完全担当制で安心して相談できる体制が特徴的です。さらに、平均20年の企業勤務経験を有したカウンセラーの信頼性や、教育・予防の観点でも高い支援力を備えています。
【FAQ】EAPサービスに関してよくある質問
EAPサービスの導入を検討する企業からは、対象企業の特徴やカウンセラーとの違い、費用の仕組みなどについて多くの質問が寄せられます。ここではよくある疑問に簡潔に答え、導入を検討する際の参考にできるよう整理しました。
- ■Q1:EAPを導入している企業の特徴は?
- EAPは従業員規模が数百人から数千人規模の中堅〜大企業で多く導入されています。従業員の多様な悩みに対応できる体制が求められるためです。中小企業の場合は、まずストレスチェックツールなど自社でできる取り組みからはじめてみるのもおすすめです。
以下の記事では、中小企業向けにメンタルヘルスに取り組むメリットや対策義務化の要件などを解説しています。ストレスチェックツールをはじめとする、メンタルヘルスケア製品も比較しているのでぜひ参考にしてください。 - ■Q2:EAPと産業カウンセラーの違いはなんですか?
- EAPは組織全体を対象に、制度設計や相談窓口、研修などを含む包括的なプログラムを提供するのが特徴です。一方で、産業カウンセラーは主に個々の従業員に対して心理的支援を行い、メンタル不調の予防やケアに重点を置きます。役割の範囲が異なる点を理解しておくことが大切です。
- ■Q3:EAPの費用はどのように決まりますか?
- 多くのEAPサービスは従業員数に応じた料金体系を採用しています。一般的には一人あたり月額数百円程度が相場で、サービス内容やオプションによって変動します。定額制を導入しているベンダーもあるため、企業規模や利用内容にあわせた見積もりを依頼しましょう。
まとめ
EAPサービスは、従業員のメンタルヘルス支援や職場環境改善を目的とした外部支援プログラムです。相談窓口の設置や研修、ストレスチェックなど幅広い支援を通じて、従業員と企業双方にメリットをもたらします。
一方で、利用が浸透しないリスクやコスト負担、効果測定の難しさといった課題もあるため、導入前の検討が欠かせません。自社の規模や課題にあわせて最適なEAPを選択し、複数サービスを比較検討することが大切です。導入後は従業員への周知と継続的な運用改善を行うことで、組織の健全化と生産性向上につなげられます。