AI・機械学習
2026年03月31日

保険見積もりをAIチャットで完結、InsureMOが離脱率改善に向けた新システムを提供開始

保険見積もりをAIチャットで完結、InsureMOが離脱率改善に向けた新システムを提供開始

保険見積もりをAIチャットで完結、InsureMOが離脱率改善に向けた新システムを提供開始(写真はイメージ)

保険加入を検討する際、多くの項目を一度に入力させられるフォームに途中で諦めた経験を持つ人は少なくないでしょう。こうした「見積もり離脱」の課題に対し、InsureMO株式会社が新たなアプローチで挑んでいます。

同社は2026年3月30日、保険業界に特化した「AI保険見積もりシステム」の提供を開始しました。AIチャットボットとの自然な会話を通じて必要な情報を入力するだけで、その場で保険料の見積もりが提示される仕組みです。従来型のWebフォームと異なり、対話形式で手続きが進むため、ユーザーは入力への心理的負担を感じにくく、途中離脱を抑制できると期待されています。

システムの核となるのは、InsureMOプラットフォーム上で動作するAIエージェントです。このエージェントが保険料試算APIをリアルタイムに呼び出すことで、会話の流れを維持しながら正確な見積もりを返す構造になっています。保険会社側は既存の商品設計データや料率表をそのまま設定に活用できるため、一からシステムを構築し直す必要がありません。

シンガポール発で2000年創業のInsureMOは、現在40以上の国・市場で500社超の顧客基盤を持ち、国内でも30社以上の金融機関に採用されています。保険業界のDX支援に長年注力してきた同社が放つ今回の新機能が、国内InsurTech市場にどのような波紋を広げるか注目されます。

保険DXが加速する中、「見積もり体験」がボトルネックに

保険業界のデジタルトランスフォーメーションは、ここ数年で大きく進展しています。オンラインでの契約手続きや、スマートフォンアプリによる保険証券管理など、顧客接点のデジタル化は着実に広がっています。しかし、その入り口となる「見積もり」のプロセスは、依然として従来型のWebフォームが主流のままです。

一般的な保険見積もりフォームでは、契約者情報・被保険者情報・保険期間・補償内容の選択など、数十項目に及ぶ入力を順番にこなす必要があります。デスクトップPCでの利用を前提に設計されたフォームは、スマートフォンからの利用が主流となった現在の環境とのミスマッチが生じており、入力途中での離脱率が業界全体で課題として認識されています。

eコマース分野では「カート離脱率」の改善が長年の命題となり、チェックアウト体験の最適化が進んできました。保険業界でも同様の発想が求められるようになっており、見積もりフローの体験品質が商談機会の損失に直結する問題として顕在化しています。

こうした背景に加え、昨今の生成AI・大規模言語モデルの実用化が、対話型インターフェースへの刷新を現実的な選択肢として押し上げています。チャットボットへの問い合わせ自体はすでに広く普及していますが、そのやり取りの中で動的に料率計算を行い、リアルタイムで見積もり結果を返す仕組みは、APIとAIエージェントの連携技術が成熟したことで初めて実現可能になったと言えます。InsureMOの今回のリリースは、こうした技術的な熟度と市場ニーズが交差するタイミングで登場したサービスと捉えられそうです。

従来の見積もりツール・競合サービスとの違いを整理する

「AI保険見積もりシステム」の特徴を理解するうえで、既存の手段と比較しながら整理しておくことが有益です。

従来のWebフォーム型見積もりとの比較

  • 入力方式: 従来は全項目を一括入力する画面遷移型。InsureMOは会話の流れに沿って1問1答形式で収集するため、1画面あたりの情報量が少なく圧迫感を軽減できます
  • エラー対応: フォームでは入力ミスが送信後にまとめて表示されることが多く、修正が煩雑です。チャット形式では入力の都度フィードバックが行われるため、修正負担が軽減されます
  • 離脱タイミングの分散: フォームは「最初の画面が複雑」という理由で早期離脱が集中しやすいのに対し、会話形式では心理的な入口コストが低く、まず開始してもらいやすい構造です

既存のチャットボット型見積もりとの比較

市場にはすでにルールベースのチャットボットを活用した見積もり誘導ツールが存在します。これらとの主な違いは以下の点で考えられます。

  • リアルタイム料率計算: ルールベースの案内ツールは最終的にフォームや電話へ誘導するケースが多く、見積もり結果の提示まで人手が介在します。InsureMOはAIエージェントが直接保険料試算APIを呼び出すため、チャット画面を離れることなく数値が出ます
  • 既存システムとの連携: 新規に料率エンジンを構築する必要はなく、保険会社が既に持つAPIや商品データをそのまま使える点は、導入ハードルを下げるうえで実質的な意味を持ちます
  • ノーコード運用: エージェントの振る舞いや見積もり条件の変更がノーコードで行える点は、開発リソースを抱えにくい保険会社の実態に対応していると受け取れます

InsurTech全体の動向における位置付け

海外では保険加入フローの完全デジタル化を掲げるInsurTechスタートアップが台頭していますが、日本国内では規制対応や既存商品との整合性から、既存インフラを活かした「段階的なDX」の需要が高い傾向にあります。InsureMOのアプローチは、既存の商品設計・料率体系を変えずに顧客接点だけを刷新できる点で、こうした国内事情と親和性が高いと言えます。

なお、InsureMOは2026年3月10日には「保険専用AIバイブコーディング」開発環境の提供も発表しており、今回のAI見積もりシステムはその延長線上に位置するソリューションと見ることができます。同社が保険業界向けにAI活用の幅を段階的に広げていることが読み取れます。

導入・評価時に確認しておきたい実務的なポイント

実際に導入を検討する保険会社のIT担当者・デジタル推進担当者が評価段階で確認すべき点を整理します。

既存APIとの接続要件

本システムの前提は「既存の保険料試算APIが存在すること」です。自社のAPIが外部連携に対応した仕様になっているか、また認証方式・レスポンス速度・エラーハンドリングの仕様がInsureMOプラットフォームと適合するかを事前に確認する必要があります。APIが整備されていない場合、まずAPIの整備・公開が先行工程となる可能性があります。

セキュリティ・コンプライアンス対応

保険見積もりプロセスでは、氏名・生年月日・健康状態など個人情報や機微情報が取り扱われます。データがどのサーバー(国内/海外)で処理・保存されるか、金融庁の監督指針やFISC安全対策基準との整合性はどう担保されているかを確認することが欠かせません。InsureMOはシンガポール本社の企業であるため、データの越境移転に関する規定への対応状況も確認項目に含めることが求められます。

ノーコード運用の実際の範囲

「ノーコードで作成可能」と説明されるエージェントについて、どの範囲までをノーコードで対応できるかを具体的に確認しておくことが重要です。商品の新設・改定時に料率表の更新だけで対応できるのか、会話シナリオの変更はどの程度の操作で行えるのか、イレギュラーな質問への対応ロジックはどう管理するのかなど、運用フェーズでの実務負荷を見極める必要があります。

導入コストと費用対効果の見立て

現時点では公開情報からランニングコストの詳細を把握することが難しい状況です。見積もり離脱率の改善による商談機会の増加をどの程度と見込めるか、費用対効果の試算は保険会社側の現状データを踏まえて個別に行う必要があります。既存の見積もりフォームの離脱率データを持っている場合、それを改善指標のベースラインとして活用することが有効です。

サポート・カスタマイズ体制

国内30社以上への導入実績を持つ同社ですが、保険商品の種類(生保・損保・少額短期など)によって見積もりロジックの複雑さは異なります。自社の商品特性に合わせたカスタマイズの対応範囲と、導入後のサポート体制(日本語対応の有無・SLAの内容)についても事前に確認しておくべきでしょう。

対話型見積もりが変える、保険の「入口」体験

InsureMOの「AI保険見積もりシステム」は、保険業界のDXにおける一つの進化形として注目に値します。チャットボットと料率APIを直接連動させ、既存の商品・データ基盤をそのままに顧客体験だけを刷新できるアプローチは、大規模なシステム改修を必要とせず段階的な変革を目指す保険会社にとって、現実的な選択肢の一つとなり得ます。

見積もり離脱率の改善は、直接的な商談機会の増加に結びつく指標です。顧客がフォームを諦める背景には、入力の煩雑さだけでなく「聞きたいことへのわかりやすい回答が得られない」という情報不足の問題もあります。対話型インターフェースは、見積もり数値を提示するだけでなく、顧客の疑問に応じて補足説明を行うといった活用にも発展できる余地を持っています。

一方で、AIエージェントが金融商品に関する情報提供を行う場合の適合性確認や、消費者保護の観点からの設計については、規制当局の動向も注視が必要です。保険業界のAI活用に関するガイドラインは国内外で整備が進んでおり、今後の規制環境の変化が導入判断に影響を与える可能性もあります。

InsureMOは今回のシステムに加え、保険専用AIバイブコーディングなど開発者向けツールの整備も進めており、保険業界のAI活用を多層的に支援する方向性が見えます。対話型見積もりというユーザー接点の改善から、業務システムの開発効率化まで、InsurTechの実装が具体的な事業課題の解決に近づいていく動きは、今後さらに加速していくと見られます。保険会社各社が独自の競争力をどのようにデジタル接点に反映させていくか、業界全体の取り組みが引き続き注目されます。

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